大阪地方裁判所 平成元年(ワ)7707号 判決 1991年1月29日
原告
本田伸一
ほか一名
被告
栄和交通株式会社
ほか一名
主文
一 被告らは、各自、原告本田伸一に対し、三一五六万七〇三四円及びこれに対する昭和六三年一二月一一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を、原告本田修二に対し、二九四〇万一〇六四円及びこれに対する昭和六三年一二月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、被告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮りに執行することができる。
事実及び理由
第一原告らの請求
被告らは、各自、原告本田伸一に対し、三六八五万六六三九円及びこれに対する昭和六三年一二月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告本田修二に対し、三四八九万〇六六九円及びこれに対する昭和六三年一二月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、二台の普通乗用自動車の接触事故に巻き込まれて死亡した夫婦の相続人である原告らが、右接触事故を起こした二台の自動車の各保有者に対して、自動車損害賠償保障法(以下、「自賠法」という。)三条に基づき、右夫婦の死亡による損害及び右事故により自らも受傷した原告本田伸一(以下、「原告伸一」という。)の受傷による損害の賠償を請求した事案である。
一 争いのない事実
1 交通事故の発生
(一) 日時 昭和六三年一二月一一日午前一時三〇分ころ
(二) 場所 大阪府泉大津市板原一二七四番地先路上(国道二六号線路上、以下、「本件事故現場」という。)
(三) 第一事故車両 普通乗用自動車(登録番号、大阪五五き一三一号、以下、「山内車」という。)
右運転者 訴外山内計正
右保有者 被告栄和交通株式会社(以下、「被告会社」という。)
(四) 第二事故車両 普通乗用自動車(登録番号、泉五八り八五〇五号、以下、「白井車」という。)
右運転者 被告白井孝幸(以下、「被告白井」という。)
右保有者 被告白井
(五) 態様 本件事故現場の道路を走行中の山内車(タクシー)と白井車が接触し、そのはずみで歩道上に乗り上げた白井車が政登、ちづよ及び原告伸一を跳ね飛ばして、政登及びちづよを歩道西側にある池に転落させて、同日死亡させ、原告伸一に傷害を負わせた。(以下、「本件事故」という。)
2 被告らの責任
被告らは、各事故車両の保有者として、自賠法三条に基づき、それぞれ本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。
3 権利の承継
原告らは政登及びちづよの子として、政登及びちづよの死亡により、同人らの被告らに対する損害賠償請求権を各二分の一ずつ相続した。
4 損害の填補
原告らは、政登の死亡につき、自賠責保険から五〇〇〇万円の支払を受け、これを各自の相続分に応じて各損害に充当した。
二 本件の争点
被告らは、政登及びちづよの死亡による損害の額並びに原告伸一の受傷内容・治療経過及び原告伸一の損害の額を争つている。
第三争点に対する判断
一 政登とちづよの死亡による損害額
1 政登の損害
(一) 逸失利益(原告ら主張額・六二三一万六三三八円) 五九四一万四四六七円
(1) 定年退職までの逸失利益 五〇〇六万三九〇〇円
証拠(甲一ないし五、証人布施彦三)及び弁論の全趣旨を総合すれば、政登(昭和二五年一月一六日生)は、本件事故当時、三八歳の健康な男子で、訴外朝日海運株式会社(以下、「訴外会社」という。)に昭和四六年に入社して以来事務職(月給制がとられている。)として勤務しており、昭和六三年中には同社から給与及び賞与として合計四七七万九〇七四円の支払を受けていたこと、訴外会社は昭和三一年一〇月に設立された主に倉庫業を営む会社で、平成二年一〇月現在正社員四三名を擁していること、訴外会社の賃金規定においては、同社社員の賃金は基本給、能力給及び諸手当からなる基準内賃金と時間外勤務手当及び休日勤務手当等の基準外賃金とで構成され、そのうち管理職及び準管理職を除く各社員の基本給については職種別、男女別に勤続年数に応じた定額で定められており、本件事故当時勤続年数一七年の事務職男子である政登の基本給は月額一二万四五〇〇円であつたこと、右賃金規定には、事務職の男子については、同社に勤務し続ける限り、毎年四月に基本給が、勤続年数一七年から同二一年までは月額二三〇〇円(年間で二万七六〇〇円)ずつ、同二二年以降は月額二五〇〇円(年間で三万円)ずつ昇給する旨規定されていること、訴外会社の社員の定年は満六〇歳であり、満六〇歳の誕生日(政登については平成二二年一月一六日)をもつて退職するものとされていることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
右事実によれば、政登は、本件事故に遭わなければ、なお少なくとも二一年間訴外会社に勤務することができ、その間毎年少なくとも本件事故当時の年収四七七万九〇七四円から勤続年数二一年となる平成四年までの四年間は毎年二万七六〇〇円ずつ、平成五年以降は毎年三万円ずつ昇給した額程度の収入を得られるはずであつたと推認することができる。
そこで、右の事故当時の年収額四七七万九〇七四円に加えて、最初の四年間は毎年二万七六〇〇円ずつ、五年目から定年退職するまでの一七年間は毎年三万円ずつの収入の増加があるものとして、右収入を基礎に、生活費として右収入の三〇パーセント(前記争いのない事実及び右認定事実によれば政登の生活費は収入の三割とみるのが相当である。)、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息をそれぞれ控除して、同人の死亡による定年退職までの逸失利益の本件事故当時の現価を計算すると、次のとおり五〇〇六万三九〇〇円(一円未満切り捨て、以下、同じ。)となる。
(計算式)
4,779,074×(1-0.3)×3.5643+27,600×(1-0.3)×8.7126+4,779,074×(1-0.3)×(14.1038-3.5643)+30,000×(1-0.3)×(137.9222-8.7126)=50,063,900
但し、八・七二一六は、毎年定額の昇給がある場合において、四年間の昇給部分からホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除する場合の係数であり、一三七・九二二二は同二一年間の係数である。
(2) 退職金の逸失利益 三五〇万円五〇〇七円
前認定の事実に証拠(甲三、六、証人布施彦三)及び弁論の全趣旨を総合すれば、訴外会社には退職金規定が定められており、右規定には同社を定年退職した社員には定年時の基本給に勤続年数に応じて定められた係数を乗じた額が退職金として支給される旨定められていること、右規定には勤続年数三七年までに対応する係数しか定められていないが、これは右規定を訴外会社の親会社である訴外四日市倉庫株式会社の退職金規定を参考にして作成した際に、同会社の退職金規定中の同様の条項に勤続年数三七年に対応する係数までしか規定されていなかつたのに倣つたまでで、それ以上の勤続年数の者については係数を増加させない趣旨で定めなかつたのではないこと、右係数は勤続年数二〇年から同三七年までは一律に二・五ずつ増加していること、政登が同社に勤務し続けて定年退職した場合、定年時の基本給は一七万六二〇〇円、勤続期間は三八年六月(一月未満は切り上げ、同規定第七条)で同規定第五条本文及び但書に準じて算出したこれに対応する係数は七六・七五、従つて退職金は一三五二万四〇〇〇円(一〇〇〇円未満切り上げ、同規定第八条)となること、政登の本件事故死により、原告らに対し、右規定に基づく死亡退職金三〇九万二〇〇〇円が支払われていることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
そこで、右得べかりし退職金からホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除した本件事故当時の現価から政登の本件事故死によつて支払われた退職金を控除して、同人が本件事故死によつて失つた得べかりし退職金の額を計算すると、次のとおり三五〇万五〇〇七円となる。
(計算式)
13,524,000×0.4878-3,092,000=3,505,007
(3) 定年退職後の逸失利益 五八四万五五六〇円
前認定の事実によれば、政登は、訴外会社を退職したのちも少なくとも満六七歳に達するまで七年間稼働することができ、その間、平成元年賃金センサス第一巻第一表、産業計、企業規模計、学歴計の六〇歳ないし六四歳の男子労働者の平均年収額三七五万〇四〇〇円程度の収入を得ることができるはずであつたと推認することができるから、右収入を基礎に、生活費として右収入の五〇パーセント(前認定の事実によれば、政登の定年退職後の生活費は収入の五割とみるのが相当である。)、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息をそれぞれ控除して、政登の死亡による定年退職後の逸失利益の本件事故当時の現価を計算すると、次のとおり五八四万五五六〇円となる。
(計算式)
3,750,400×(1-0.5)×(17.2211-14.1038)=5,845,560
以上により、政登の死亡による逸失利益の合計は五九四一万四四六七円となる。
(二) 慰謝料(原告ら主張額・二三〇〇万円) 二二〇〇万円
前認定の事実に本件事故により当時一三歳の原告伸一及び一〇歳の原告本田修二(以下、「原告修二」という。)が両親のない子として残されたこと(甲一)及び本件証拠上認められる諸般の事情を合わせ考慮すれば、政登が本件事故死によつて被つた精神的苦痛に対する慰謝料としては二二〇〇万円が相当であると認められる。
2 ちづよの損害
(一) 逸失利益(原告ら主張額・三五五四万五〇〇〇円) 三〇四六万七六六一円
甲一及び弁論の全趣旨によれば、ちづよ(昭和二五年四月五日生)は、本件事故当時、三八歳の健康な女子で、夫である政登との間に中学生と小学生の二人の子を持つ主婦として家事労働に従事していたことが認められるから、同人は本件事故に遭わなければ、少なくとも満六七歳まで二九年間は家事労働に従事することが可能であつたものと推認される。
以上の事実によれば、ちづよは、本件事故死により、平成元年賃金センサス第一巻第一表、産業計、企業規模計、学歴計の三五歳ないし三九歳の女子労働者の平均年収額二八八万〇四〇〇円を基礎収入とし、生活費相当額として右基礎収入額の四割、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息をそれぞれ控除して算出した本件事故当時の現価である三〇四六万七六六一円相当の得べかりし利益の喪失による損害を被つたものと認めるのが相当である。
(計算式)
2,880,400×(1-0.4)×17.6293=30,467,661
(二) 慰謝料(原告ら主張額・二〇〇〇万円) 一九〇〇万円
1(二)記載の事情を考慮すれば、ちづよが本件事故死によつて被つた精神的苦痛に対する慰謝料としては一九〇〇万円が相当であると認められる。
3 権利の承継
原告らが、政登及びちづよの子として、右両名の被告らに対する損害賠償請求権を各二分の一ずつ相続したことは当事者間に争いがないから、原告らは1及び2の損害の賠償請求権を各二分の一(六五四四万一〇六四円)ずつ承継したことになる。
4 葬儀費用(原告ら固有の損害)
(原告ら主張額・各一〇〇万円) 各一〇〇万円
前認定の事実及び弁論の全趣旨によれば、原告伸一と原告修二は政登及びちづよの葬儀を執り行い、その費用として少なくとも二〇〇万円を支払い、これを二分の一ずつ負担したことが認められる。
二 原告伸一の受傷による損害
(一) 受傷、治療経過
(1) 受傷
証拠(甲七、九)によれば、原告伸一は、本件事故により、左前腕骨骨折、左・右脛骨骨折、左大腿骨外顆骨折、右大腿骨内顆骨折、頭部打撲、挫傷等の傷害を受けたことが認められる。
(2) 治療経過
証拠(甲七、八の一ないし四、九、一〇、証人本田幸子)によれば、原告伸一は前認定の傷害の治療のため、次のとおり入・通院して治療を受けたことが認められる。
<1> 昭和六三年一二月一一日から平成元年二月七日まで医療法人生長会府中病院(以下、「府中病院」という。)に入院(五九日間)
<2> 平成元年二月八日から同年七月一九日まで同病院に通院(実通院日数八五日)
<3> 平成元年七月二〇日から同年八月三日まで同病院に入院(一五日間)
<4> 平成元年八月四日から同月二八日まで同病院に通院(実通院日数一〇日)
<5> 平成元年八月三〇日から同年九月二七日まで九州厚生年金病院に通院(実通院日数一七日)
(二) 損害額
(1) 治療費(原告伸一主張額・五七七〇円) 五七七〇円
証拠(甲一〇)によれば、原告伸一は、前認定の九州厚生年金病院での治療のために、合計五七七〇円の治療費を支払つたことが認められる。
(2) 入院雑費(原告伸一主張額・九万六二〇〇円) 九万六二〇〇円
原告伸一は、前認定の七四日間の入院期間中に少なくとも一日当たり一三〇〇円、合計九万六二〇〇円の雑費を要したものと推認される。
(3) 通院交通費(原告伸一主張額・六万四〇〇〇円) 六万四〇〇〇円
前認定の治療経過に証拠(甲一、二、七、八の一ないし四、九、一〇、証人本田幸子)及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告伸一は、前認定の府中病院への通院のため、大阪府泉大津市松之浜町二丁目三六―一八所在の当時の自宅から大阪府和泉市所在の府中病院まで、南海電車(松之浜・泉大津間)と南海バス(泉大津駅・府中車庫前間)を利用し、通院一回につき六二〇円(電車片道一〇〇円、バス片道二一〇円)、合計五万八九〇〇円の交通費を支払い、また、前認定の九州厚生年金病院への通院のために、その後転居したのちの住所である肩書住所地の訴外本田サナエ(原告らの祖母)方から九州厚生年金病院まで西鉄バス(鳴水・年金病院間)を利用し、通院一回につき三〇〇円(バス片道一五〇円)、合計五一〇〇円の交通費を支払つたことが認められる。
(4) 慰謝料(原告伸一主張額・一八〇万円) 一八〇万円
前認定の原告伸一の受傷内容及び治療経過、その他本件証拠上認められる諸般の事情を考慮すれば、本件受傷によつて原告伸一が受けた精神的・肉体的苦痛に対する慰謝料としては一八〇万円が相当である。
三 損害の填補
前記のとおり、原告らは自賠責保険から政登の死亡につき五〇〇〇万円の支払を受け、これを各自の相続分に応じて分配していることは当事者間に争いがなく、さらに、右受領額のほかに原告らがちづよの死亡につき自賠責保険から二九〇八万円の支払を受け、これを各自の相続分に応じて分配したことは原告らにおいて自認するところであるから、右受領額合計七九〇八万円(原告らの分配額各三九五四万円)は前認定の政登及びちづよの死亡による損害額から控除すべきである。
四 弁護士費用(請求額・各三〇〇万円)
原告伸一につき二七〇万円、原告修二につき二五〇万円
本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、原告伸一につき二七〇万円、原告修二につき二五〇万円と認めるのが相当である。
第四結論
以上によれば、原告らの本訴請求は、被告らに対し、原告伸一において三一五六万七〇三四円、原告修二において二九四〇万一〇六四円と付帯請求としての遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、主文のとおり判決する。
(裁判官 笠井昇 本多俊雄 中村元弥)